青山 志度
路地奥の地階にひっそりとある「仏蘭西酒場」。
フランス料理とワインが気軽に楽しめる。シェフは、フランス料理の名人と歌われた志度藤雄氏の薫陶を受けた二代目、志度満氏。先代が考えたというドライカレーは、毎年七月一日から二ヶ月だけ登場する。
ルゥーを時間かけて練り上げ、フォンドヴォーを加え、牛すね肉や香味野菜やトマトを炒め加え、じっくりと煮込むこと六時間。チョコレート色の志度流ドライカレーが出来上がる。
ねっとり、ぽってりと重いそれは、溶けかかったビターチョコレート、少しゆるい八丁味噌のようでもある。
口に含むと、カレー香がふわりと鼻に抜けて、豊かなコクとまろやかで奥深いうまみが広がって、思わず顔が崩れる。
フライドオニオン、枝豆、干しぶどうなどが混ぜられたバターライスになすりつけるようにして、あるいは色が変わるほどによくよく混ぜて食べる。
ほのかなカラメルの苦味、隠された甘みも加わって、スプーンが止まらない。
ラッキョウ、パイナップル、胡瓜ピクルスの薬味もいい。
唯一この店だけのドライカレーは、うまくなれうまくなれと念じながら煮込まれた、作り手の想念もこめられている。
だからうまい。 千八百円。